甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症の症状は個人によって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られることがあります。
- 最近よく疲れる
- 冷え性である
- 食欲は低下しているのに、体重が増えている
- 便秘である
- 皮膚が乾燥している
- 声がかすれる
- 筋肉や関節がかたまっている
- 集中力が低下し、注意散漫になる
- 月経が不規則になる
- 気分が沈んだり、うつ病の症状が見られる
これらの症状が見られる場合は、甲状腺機能低下症である可能性が高いです。甲状腺機能低下症は放っておくと合併症を発症し重症化してしまうこともあるので、上記のような症状がみられたら医療機関で血液検査を行い、甲状腺ホルモンの数値を確認しましょう。
甲状腺機能低下症を放っておくとどうなる?
甲状腺機能低下症を放置すると、甲状腺ホルモンの不足が続くことから、体の様々な機能に影響を与えます。下記が主な疾患になります。
心血管系の合併症
甲状腺ホルモンの不足は、心臓の機能低下や動脈硬化を引き起こす可能性があります。これにより、高血圧や動脈疾患のリスクが増加します。
高コレステロール(高脂血症)
甲状腺機能低下症は、血中のコレステロールを増加させ、動脈硬化や心臓病のリスクを高める可能性があります。検診などで異常を認めた場合も、原因として甲状腺の病気が隠れていることがあるので、放置をせずに医療機関を受診してください。
認知症のリスク
甲状腺機能低下症が認知症を進行させる具体的なメカニズムについてはまだ完全に理解されていない部分がありますが、甲状腺ホルモンの不足が原因で、脳内の神経伝達の異常や痛覚の処理変化など、いくつかの要因が重なって影響を与えていると言われています。
体重の増加と代謝の低下
代謝が低下し、体重の増加が起こりやすくなります。これは、エネルギーの使用が低下するためです。
精神症状
高度な甲状腺機能低下症では、幻覚や意識障害などの精神症状が発生することがあります。
これらの合併症は、甲状腺機能低下症が進行している場合に現れる可能性があります。早期の診断と治療は、これらの合併症の発生を予防し、患者の生活の質を向上させるために重要です。甲状腺機能低下症の症状が見られる場合は、医師の診察を受け、適切な治療を開始することをおすすめします。
甲状腺機能低下症の原因
甲状腺機能低下症の原因は主に以下のようなものが挙げられます
自己免疫疾患(橋本病)
甲状腺が自己免疫攻撃を受け、免疫系が甲状腺組織を攻撃して破壊する自己免疫疾患が主な原因の一つです。橋本病は甲状腺機能低下症の最も多い原因の一つとなっています。
手術や放射線治療
甲状腺を一部または完全に取り除く手術や、放射線治療を受けることによって甲状腺機能が低下することがあります。
抗甲状腺薬の使用
一部の甲状腺機能亢進症(甲状腺が過剰に働く状態)の治療に使われる抗甲状腺薬が、過剰に使用されたり、長期間にわたって使用されたりすると、甲状腺機能低下症を引き起こすことがあります。
妊娠関連の甲状腺疾患
妊娠中や出産後に一時的に甲状腺機能低下症が発生することがあります。これを甲状腺機能低下症の一形態として「妊娠関連甲状腺機能低下症」と呼ぶことがあります。
先天性
生まれつきの甲状腺機能低下症は、胎児の発育時に甲状腺が適切に発育しなかったり、甲状腺ホルモンの合成に問題があったりすることによって引き起こされることがあります。
ヨウ素の過剰摂取
昆布、昆布だし、ひじき、ヨウ素うがい薬、ヨウ素系造影剤などを過剰に摂取することが原因になることがあります。
薬剤性
抗甲状腺薬以外にもインターフェロン、アミオダロン、炭酸リチウム、抗てんかん薬、抗うつ薬などによっても甲状腺機能が低下することがあります。
上記の原因以外にも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の機能異常や甲状腺ホルモンが聞かない病気でも甲状腺機能が低下することがあります。TSHの機能が低下する原因として、脳の下垂体や視床下部の病気が挙げられます。
橋本病(慢性甲状腺炎)とは
よく、橋本病という名前を聞くかと思いますが、橋本病も甲状腺機能低下症の1つです。九州大学の橋本策博士が世界で初めて医学雑誌にこの病気に関する論文を発表したことから、橋本病という名前がついています。20代後半〜40代の女性に発症が多いことが特徴になっています。橋本病は慢性甲状腺炎と呼ばれることもあり、甲状腺に慢性的な炎症が起きます。自己免疫疾患が原因となって起こっていると考えられており、甲状腺を障害する物質によって甲状腺の細胞が障害されることにより甲状腺ホルモンが作られなくなって甲状腺機能低下状態となります。
橋本病の検査
超音波検査では、甲状腺はびまん性に腫大しているのが特徴です。
血液中のFT4とTSHを測定し、FT4低値、TSH高値となっていれば甲状腺機能低下症です。FT4は正常でTSHのみ高値の場合は、潜在性甲状腺機能低下症といいます。橋本病でも、病期によって機能正常なことがあり、治療するかどうかはホルモンの状態をみて判断します。
原因となる自己抗体の抗原がサイログロブリン(Tg)と甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)であることがわかっており、抗Tg抗体と抗TPO抗体を測定し、陽性か確認します。
橋本病の治療
甲状腺機能低下症の治療では、甲状腺ホルモンが不足することが原因となっている病気になるため、甲状腺ホルモンを補充する治療が一般的になります。甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン(主にテトライオドチロニン、T4)の不足があるため、合成された甲状腺ホルモンの補充が行われます。一般的には、レボチロキシン(L-thyroxine)などの甲状腺ホルモン製剤が使用されます。治療開始時には、患者の症状や甲状腺ホルモンの血中濃度をもとに適切な補充量が調整されます。
甲状腺機能低下症の患者は通常、一生涯にわたって甲状腺ホルモン補充療法を受ける必要があります。定期的な血液検査を行い、甲状腺ホルモンの濃度が正常範囲にあるかどうかを確認しながら治療が継続しましょう。年齢や体の状態によって必要な甲状腺ホルモンの用量も変化するので、定期的な検査が重要です。